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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)664号 判決 1984年11月28日

控訴人

工藤昌伸

外二六名

右訴訟代理人

新井章

大森典子

江森民夫

加藤文也

齊藤豊

被控訴人

住宅・都市整備公団

右代表者

竹岡勝美

右訴訟代理人

大橋弘利

被控訴人

西北ビル株式会社

右代表者

田村美好

右訴訟代理人

圓山潔

阿部博道

主文

原判決を取り消す。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人公団の代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び立証の関係は、原判決の事実摘示と同一(ただし、原判決三丁裏五行目「日本住宅公団法」及び同末行「同法施行規則」の前に各「廃止前の」を加え、四丁裏一〇行目の「合体」を「全体」と改め、八丁裏七行目「通告」の次に「をなし、さらに、原判決言渡後の昭和五九年七月九日に従前の賃料の三倍に相当する値上げをするという二度目の通告」を加え、九丁表末行の「原価」を「減価」と改め、一一丁裏六行目と七行目との間に「(八)本訴は、具体的、個別的な賃貸条件が控訴人らにとつて不利益となるおそれを一般的かつ未然に防止することを目的とするいわゆる予防訴訟ではなく、賃貸人の地位の存否という賃貸借の基本となる実体関係につき現に存する控訴人らの法的地位にかかる不安を除くための確認訴訟である。」を、一二丁裏九行目「不適法」の前に「前訴判決の既判力又は争点効に牴触し」をそれぞれ加え、当審における新たな証拠関係は、当審記録中の証拠目録に記載のとおりである。)であるから、これを引用する。

理由

一請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

控訴人らは、本訴請求の趣旨として、控訴人らと被控訴人公団との間に本件各居室につき賃貸借契約が存在することの確認及び控訴人らと被控訴人会社との間に右居室につき賃貸借契約が存在しないことの確認をそれぞれ求める旨の文言を用いているが、その請求原因によれば、本件各居室につき、控訴人らが被控訴人公団に対し賃貸借契約上の権利義務の存することの確認及び控訴人らが被控訴人会社に対し賃貸借契約上の権利義務の存しないことの確認をそれぞれ求める趣旨と解される。

ところで、控訴人らは、旧公団から被控訴会社に対する本件建物の譲渡が規則一五条所定の「特別の必要」の要件を欠き無効であることを理由として、前記居室の賃貸人が旧公団から権利義務を承継した被控訴人公団であり被控訴人会社ではないと主張するのに対し、被控訴人らは、本件建物の譲渡は有効であり右賃貸人は被控訴人公団ではなく被控訴人会社であるとして争つているのであるから、控訴人らと被控訴人らとの間において右居室の賃貸人が被控訴人らのいずれであるかにつき争いが存することとなる。

もつとも、被控訴人らは、控訴人らが本件各居室につき賃借権を有することを認めており、また、被控訴人ら同志の間では本件建物の譲渡が有効であることにつき争いがないけれども、規則一五条にいう「特別の必要」の要件を欠く譲渡は私法上無効であるとの控訴人らの主張を前提とするならば、同居室の賃借人である控訴人らにとつて、結局、修繕義務の履行請求や賃料の支払等賃貸借契約に基づく権利の行使及び義務の履行につきその相手方となるべき賃貸人は、被控訴人公団であり、被控訴人会社ではないこととなり、この点について被控訴人らとの間に現に争いが存する以上、その確定を得なければ控訴人らの賃借人としての法的地位は極めて不安定な状態にあるものと言い得る。

したがつて、旧公団との賃貸借契約において控訴人らの受けた諸利益(一般の住宅よりも賃料が低廉であること、正当事由による明渡請求を受けないこと、公的な管理の制度が整備されていること等)が本件建物の譲渡により失われること及び被控訴人会社から控訴人らに対し賃料・共益費の大幅な増額請求がなされ将来も同様の請求を受けるおそれがあること等が控訴人らの法的地位の不利益、不安定をもたらすか否かを問うまでもなく、控訴人らは、前記の争いを抜本的に解決すべく、被控訴人公団に対し右賃貸借契約上の権利義務の存することの確認を、被控訴人会社に対し同賃貸借契約上の権利義務の存しないことの確認をそれぞれ求める法律上の利益を有する。

二なお、<証拠>によれば、控訴人らは、本訴に先き立ち、旧公団及び被控訴人会社を被告とし、旧公団から被控訴人会社に対する本件建物の売買が無効であることを理由として、「本件建物につき、旧公団が被控訴人会社に対し所有権を移転する債務を有しないことの確認及び被控訴人会社が旧公団に対し所有権の移転を請求する権利を有しないことの確認をそれぞれ求める。」旨の訴(東京地方裁判所昭和五五年(ワ)第四〇一三号建物譲渡契約無効確認請求事件)を提起したこと、右訴えについては、売買の目的物の賃借人である控訴人らは同売買契約に基づく債権債務の不存在確認を求める利益を有しないものとして訴え却下の判決がなされ、その控訴事件(東京高等裁判所昭和五五年(ネ)第二六四六号。なお、被控訴人は、旧公団の承継人である被控訴人公団及び被控訴人会社である。)においても右判断が維持されて控訴棄却の判決がなされ、同判決は昭和五七年六月一五日に確定したことが認められるけれども、右訴えにおいて存在しないものと判断された確認の利益は、本訴において控訴人らの主張する確認の利益とその内容を異にしているから、前訴判決の既判力が本訴に及ぶものではなく、また、前訴においては本件建物の売買の効力につき何らの審理判断もしていないので、本訴につき争点効を生ずる余地もなく、この点に関する被控訴人公団の主張(引用にかかる原判決の当事者の主張二ノ五(1))は理由がない。

三よつて、本件訴えを不適法として却下した原判決は不当であるから、これを取り消した上本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(田中永司 宍戸清七 笹村將文)

控訴人目録<省略>

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